「泉州水なす」を絞るとどうなるのか?
いらっしゃい、泉州水なすのお嬢様
「ど、どうぞ……よくいらっしゃいましたね」
この日、遠路はるばる関東の筆者宅へやってきたのは、大阪府・川崎貴彦さんの「泉州水なす」ご一行。
商品名『生でガブっと!!泉州水なすセット』
小包を開けた途端、敬語でお声がけをせずにはいられないほどの気品が溢れ出しました。なんてったって、一つひとつ個包装されているのですから。
個包装のそれぞれに付けられているタグにも、水なすのお嬢様たる風格が現れています。
泉州水なすの保存方法
高品質の鮮度保持袋を使用しています。冷蔵保存ではなく、直射日光に当たらない涼しい場所で保存していただくとより鮮度が保てます。
そういえば、食品の保存に詳しいNさんからは「ナスはお嬢さまだから丁重に扱うのよ。乾燥を嫌うから、ラップで包んであげるなどしてね」と口酸っぱく注意されていましたが、タグの記載によると、どうやらこちらのお嬢さまたちは、硝酸が低いのとこの「高品質の鮮度保持袋」で鮮度が長くなるので、冷蔵庫に入れずに保管するのがいいんです。
泉州水なすを箱から開封しました
実際に手に取ってみると、一つひとつがかなりずっしり重い。ナスらしからぬ重量感です。おっと、お嬢様に重いなんて失礼……?
「いいえ、最高級の褒め言葉ですわよ」
あっ、この声は泉州水なすお嬢様! 喜んで下さって何よりでございます、はい。
ではちょいと失礼して……袋からご開帳といきましょうか。
「か…鏡ですわ!」
まるで1200番のやすりで磨き切った御影石のように、ツルピカです。こんなに美しいナスをみたのは、恥ずかしながらわたくし初めて。食べる前から恐れ入りました、泉州水なすお嬢様。
とこで大阪の泉州はどこにあるの?
ところで、水なすといえば枕詞のようについてまわる「泉州」ですが……「泉州」っていったいどこ?
泉州地域とは
泉州地域は、大和川以南の大阪湾岸部、9市4町からなるエリア。温暖で降水量が少ない上に大河がないため、弥生時代からため池を利用して発展してきました。農作物も歴史的特産物が多く、泉州ブランドとして生産されています。
泉州は古代より農業が盛んなエリアで、「泉州水なす」をはじめとする多くの伝統野菜が今日に残されているそうです。
この地域の人にとってナスといえば水ナスを示し、府内で広く栽培されている千両ナスを「木ナス」といって区別しています。
泉州水なすを観察してみた
艶々の輝き
並べてみれば艶々と輝き、内側からパワーがあふれんばかり。
ひとつ手にとれば、水晶玉のようです。
「私の部屋が……泉州水なすに映り込んでる…だと!?」
泉州水なすの表面に反射しているのは、仕事部屋。まさか作物に映り込んでしまうなんて……なすってこんなに美しい食材なのですね。
市販のなすと比べてみた
普段スーパーなどで目にする一般的なナスと、関西が誇る伝統野菜「泉州水なす」とはどう異なるのでしょうか。比べてみましょう。
※大切なご注意:今回使用した「一般的なナス」は、たまたま私の家の近所のスーパーで販売されていたものです。野菜の品質は栽培方法や収穫時期、保管方法、経過日数等によって変わります。適切に管理し鮮度の良い野菜を提供しているお店はたくさんありますし、収穫始めか収穫終わりかなどの野菜の生育ステージの差で見た目に違いが現れることもあります。
外見
左が泉州水なす、右がスーパーのナスです。見慣れたナスと比べて、泉州なすは丸々としたしずく型。
実際に並べてみると、光の反射の仕方も違うことがわかります。
泉州水なす(奥)の輝きが新入社員の瞳だとしたら、スーパーで購入したナス(手前)は定年間近のベテラン社員の瞳のようないぶし銀の光り方をしていますね。
ヘタの切り口にも注目です。スーパーのナス(左)は茶色くなっていますが、泉州水なすは切りたてのように青々としています。
重さ
一般のなすは85グラムでした。対する泉州水なすは…
226g! ヘビー級じゃないですか!
やはり初めて持ち上げた時に「重い…」と思ったあの感覚は間違いではなかったようです。
水分量の違い
いくつかの方法を検討した結果、測定後も美味しく食べられるように、それぞれをぶつ切りし、100g分ずつ取り分け、ハンドジューサーを使って絞ってみることにしました。
まずは泉州水なすから。100g分をジューサーに入れて、入りきらず溢れ出してしまいましたが、問答無用で……
プッシュ!全身全霊の力を込めて圧をかけます。
泉州水なすの水が確かに絞れています!
プレスし身を混ぜる工程を3回繰り返し、ぺちゃんこになった泉州水なす
それでは泉州水なすの水を測ってみましょう。果たしてどれだけの水分が絞れたのか……。緊張の一瞬です。
とくとく注がれる泉州水なすの水分。いい調子です。
100gの泉州水なすから絞れたのは、おおよそ40mL。しかしまだスーパーのナスを絞ってないため、この数値が多いのか少ないのか判断できません。
お次はスーパーのナス。先ほどと同様、たっぷりと100g詰め込み……
先ほどと同様、プレス→身をほぐす工程を3セット繰り返しましたが、泉州水なすのときのように縁から水分が滲み出ることは一切ありませんでした。
そして、注いでいくのですが……あれ、ぜんぜん水分が、ない! シャッターチャンスがあまりにも短すぎました。
結果がこちら。
泉州水なすの水分が40mLに対し、スーパーのナスは8mLほど。泉州水なすの水分が「じょろろろ」と注げることは、凄まじいことだったのですね…
皮の薄くそしてキメを細かく栽培された水なすは水分をいっぱい貯めこんでます。
今回の実験は家庭にある機材を用いているため、数値の厳密さは満足とは言えませんが、確かに泉州水なすの水分含有量は長けているという研究論文が発表されているようでした。
ということで「泉州水なすはスーパーで普通に売ってたなすよりも水分をたくさん含んでいる」ということが判明しました。
食べ比べてみた
「やっぱし水なすは刺しやで、おつくりや」
ということで生で食べ比べしてみます。もちろんスーパーのナスも生です。
まずは両者を輪切りに。スーパーのナスは繊維が均一に詰まっており、ごくごく一般的な姿形をしていました。
刺身で食べ比べ
少し力を込めて握ってみると、キラキラと水分が染み出してきます。この姿……既視感があります。これは中学生のとき理科で習った「維管束の図」に似ている…!
泉州水なすは、シャキッとしており、噛むほどに水分が染み出してくる。さらにその水分が甘く香り高い。口に残った身もホロホロと崩れていき、あっさりとした食感。
一般のなすは一瞬「イケる!」と思うが、すぐやってくるピリピリとした痺れ(アク?)に「生では食べられない」と断念させられる。一般的なナスはしっかり加熱をし、とろとろに煮込むことで一番おいしい状態になるのだと再確認。
泉州水なすとスーパーのナス、生食での味の違いの理由は何だろう?
研究論文によると、泉州水なすは他のナスに比べて糖含量が多いだけでなく、ブドウ糖よりも果糖の割合が高いことが書かれていました。水なすを食べたときに果物のように甘いと感じたのは、このためかもしれません。 また、泉州水なすには渋みの元とされる「クロロゲン酸」というポリフェノールが他のナスよりも少ないとも書かれていました。クロロゲン酸は切り口の褐変にも関与すると考えられているので、スーパーのナスのヘタの切り口が茶色かったことには、クロロゲン酸の影響があるのかもしれません。
泉州水なすの汁を飲んでみた
見た目は渋めの紅茶のようですが……
「甘っ!!」
これが渋みも一切なく甘い。見た目に騙されてはいけません。飲めます。さすがお嬢様の本領発揮だと痛感させられたのでした。
※実験に使ったなす果汁・なす果肉は筆者の夕飯として最後まで美味しくいただきました。
泉州水なすは大阪のソウルフード
泉州水なすを、浅漬けにしたり、ポン酢をつけたりしましたが、一番の贅沢な食べ方はオリーブオイルをちょっとだけ垂らしてお塩をつけていただく食べ方です。
安政7年(1860年)より続く農園の6代目園主です。
さらに、川崎さんの泉州水なすは、2019年に開催された【G20大阪サミット2019】夕食会のメニューに使用されたというほどの逸品!
土壌検査から施肥設計・肥料の発酵までこだわりの泉州水なすをぜひお召し上がり下い。